投稿作品
東條康江さん・・・青松園の歌人です。
・・・山の湯宿・・・

乗鞍の山の湯宿に安らぎて標高三千の空気を吸えり

乗鞍の山の湯宿に目覚むれば昨夜の吹雪に山白きとぞ

目の見えぬ我がため車椅子を押し松本の城巡りくるるも

手打ちそば食し舌鼓打つ我に旨きかと聞くテレビの記者は

インタビューに答えて我はハンセン病の伝染らず治ること強調す
松浦篤馬さん・・・青松園の歌人です。
・・・療園の秋・・・

観光地巡りがせめてもの救いなりきらい故癒えて帰郷できぬ君

生れ育ちし家か草葺きの写真あり療園に果てし君の遺品に

せめてもの隔離補償か寺とまがう骨堂真白く秋日を反す

菜園も作らずなれどときに鍬握りみるなり農育ちわれは

病みて世に出でざる故に面映ゆし敬老祝会の席に座しいて
政石 蒙さん・・・青松園の歌人です
・・・続・歳月・・・

生くるとは即ち食ぶることなりと明快なりき捕虜の日餓ゑて

六十余年過ぎたる今に食事どきふっと浮かびくる捕虜の日の餓ゑ

戦争の体験書けとすすめられ書くと応へて一年を過ぐ

尖り爪隠す演技に易々とたぶらかされはせぬと力めり

靖国の参拝為すとも為さぬとも言はぬが花のやがて凋まむ
機関紙「青松」第624号掲載
山本らつさん・・・大阪の歌人です。「黒曜座」51号掲載。
・・・男の朗笑・・・

潮干珠この掌にあらばこの海を歩きてゆかん君の待つ島へ

掌底にころころ遊ぶオリーブの実の温もりつつ香り放ちぬ

だれもいぬ椅子に先客ひとりあり紅をまといし木の葉座りぬ

やわらかき風のうねりは櫛となり緑の葉群を解きつつ過ぎぬ

異国より来りし魚の泳ぎいる水槽の中の小さき地球

声かくれば背びれ尾びれをリズムよく揺らし答えぬ水槽の魚

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