投稿作品
手編みのマフラー  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」627号所収
幾度も問いくれし娘が夫と我に手編みのマフラーを贈りくれたり
最低の気温零度となりし朝手編みのマフラー首に巻きたり
風邪癒えしあとを大事にと温かき手編みのマフラー身につけており
黒と黄の色合いよろし二人して編みつぎくれしマフラー温し
若き娘が一目一目を編みくれしマフラー温しその愛温し
古刹の前   松浦篤男さん・・・青松園在住     「青松」627号所収
不治のわがらいを癒やすと必死なりし父が顕つ古刹に手を合わすとき
国宝のみ堂にひたすら手を合はす神仏に縋りし父思ひつつ
信仰を持たねど心洗わるる古刹の森の中の冷気に
秋晴れの清しき公園ひた歩む芝生は吾の義足に優し
公園の芝生に義肢のべ弁当食ふ児らの歓声を聞きて清しく
開戦記念日に憶ふ  政石 蒙さん・・・青松園在住     「青松」627号所収
核兵器保有論まで出づる世となりて迎ふる開戦六十五周年
核被爆国に日本の大臣が核保有願望を口にせり噫
大正の末期に生れ戦ひの中に育ちて兵となりたり
幼児より教育勅語に則りて愛国心を叩き込まれき
一銭五厘の葉書の価に比されつつ兵は帝の盾となりたり

ふるさとへの道  桜こと羽さん・・・大阪在住     「黒曜座」52号所収
アナログの思考回路にふるさとの新しき路はつながり難し
白黒の写真の人となりてなほ迎へし母のにこやかな顔
障子戸を開くれば小さく庭すみに今際の母の見たる臘梅
離れ住む子らを重ねて見しならむ庭木は妣の面影に鳴る
死神は父に冷たく母逝きて細りたる道なほ歩めとや
母逝きて三年余りの道のりを父は小さく杖つきて来し
老いを増すやもめの父のかたはらに残しおきたき吾が影法師
いつかまた帰り来るまでふるさとの母の墓前に花いちもんめ
掬い取る水面  山本らつさん・・・大阪在住     「黒曜座」52号所収
咲き初めの百合の薫りのほの甘く生あることを知らしめにけり
ひとつぶの雨のしずくを手のひらに受けて覗きぬ吾の未来を
メタセコイアよお前の上枝に立ちたれば丸き地球の姿 見えぬか
太陽は永久にあるかと常想う地球の終もありやなしやと
昼は太陽に夜はライトに照らさるる眠れぬ銀杏の二十四時間
木枯しの一号吹く日に旅に出ぬ枯葉一枚ノートにはさみ
ゴォーゴォーと闇をかけゆく終電の音に溶けゆく我が夢の花
止まらないだれか止めてよこの泪 溜まり溜まりて月を写しぬ
はたはたと旗のはためく道ぞいにダンゴ屋のあり のんどが溶ける


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