投稿作品
入院  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」644号所収
嘔吐下痢激しくノロウイルスの疑いありて入院したり
ナースのみ出入りの叶う隔離室ノロウイルスと我は戦う
枕辺の音声時計の刻告ぐる声のやさしき今日よりは友
隔離より開放されて我が部屋にもどり来たりぬ夫のよろこぶ
お互いに一人暮らしのわびしさを思い過ごせり二泊三日を
進む白内障   松浦篤男さん・・・青松園在住     「青松」644号所収
右乱視左白内障にて読めぬ書籍手荒に積めり
老人性白内障が進むまで生きぬ不治なりし癩に耐へに耐へきて
白内障とみに進みて見辛かりき妻逝き寂しきわれを追ひ打つ
怠けこし五十年悔いぬ白内障進みて読み書き難くなりきて
白内障手術の成功祈るのみ癩に指失せ知覚もなきゆゑ
ある日ある時  政石 蒙さん・・・青松園在住     「青松」644号所収
船首見て出迎へ船尾見て送る友を肉親を持てる幸せ
海渡りきて海渡り帰りゆくこの友も老いを言ふべくなりぬ
電動車降りてよろめき倒れむとするをすばやく友支へくれたり
道に会ひ親しく言葉交はしつつ顔覚えゐてその名浮かばず
一日をわざに遅らせ書く日記昨日の記憶を呼び覚ましつつ

New Year  桜こと羽さん・・・大阪在住     「くれない」80号所収
玻瑠窓に外界を隔て籠もる吾はいまだに黒き裾ひく金魚
たまきはる友の命は空にあり冬の一番星を愛しむ
待つ人のなき家に帰る胸のうちを夫君が告ぐるクリスマス・イブ
元日の昨日は雪に晴れ渡るけふは雀になり友が来る
New Yearはかう書くんだっけ教科書を立てて眠りし英語の授業
幸せは中くらゐが良くユニクロのフリースのままに行く初詣
日替はりに居座る礼者エプロンの袖たくしあげ三ヶ日過ぐ
川原の風の寒さに籠もりゐる蓑虫の冬はちょっと退屈
体内時計  山本らつさん・・・大阪在住     「くれない」80号所収
黒雲が流れてゆきぬ和歌山へ 山の向こうは雲の墓場か
わが前にゆるりゆらゆら飛び来る蝶よ疾くゆけ木枯らしくるぞ
冬ざれの道を歩める白き犬その尾は長く影を引きゆく
地下道に眠る男の足裏は黒く染まりぬ靴はくごとく
「子を持てぬわたしの心の五月闇」友のつぶやく言葉の重し
身の内に生き続けるもの心臓の鼓動聞きつつ眠りに堕ちる
時くれば芽吹き花咲くものたりに宇宙の太陽こそが体内時計
心に湧くひさかたぶりの微笑を雲間にのぞく太陽と交しいる


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