投稿作品
癒ゆる日を待つ  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」645号所収
肛門の傍に出来たる太き黒子取り除かれてベッドに伏せり
我の黒子を取りてくれたる皮膚科医師癌頑張ったねと労いくるる
尿管を入れくるる医師に身を委ね恥じらいを捨て痛み堪えつ
生まれしままの姿さらして治療受く傷癒ゆるまで我慢よ我慢
尿管を入れて尿なす羞恥心捨ててひたすら癒ゆる日を待つ
白内障手術   松浦篤男さん・・・青松園在住     「青松」645号所収
容赦なく白内障進む呆気なく妻の逝きたる失意の日々に
白内障進み新聞も読めずなり眼の見ゆる幸改めて知る
不治の癩に罹り七十年白内障手術受けなほ生きなむとする
別世界の如くに視界明瞭なり白内障手術の眼帯外せば
身体まで軽く文書く白内障手術の成りて視力戻れば
妖怪現る  故 政石 蒙さん・・・青松園在住     「青松」645号所収
平成の世に妖怪の現れて侵略戦争を糊塗せむとする
空幕僚長の立場をわきまへず危ふき思想を開陳なせり
侵略の戦などとは濡れ衣とぬけぬけと言ふ空幕僚長
かの戦時兵を鼓舞せる言動とまがふ空幕僚長の言
自衛隊内部に平和憲法を軽視の思想はびこる怖さ

雪降れこんこ  桜こと羽さん・・・大阪在住     「くれない」81号所収
パキポキ音たつゐがに寒の朝の吐く息白く凝りてゐたり
降る雪を天の手紙とたれぞ言ふおぎろなき空ゆ草書したたむ
友の死を容れざるわれに冷たさを残して雪が手のひらに消ゆ
夏に生れ冬の遊びを知らぬまま逝きし子がゐる雪降れこんこ
たらちねの乳の色なしふうはりと無縁仏の墓碑に雪積む
幼日紙飛行機は雪解けの段段畑の風になりたり
銀色に光るつぼみを見てしより木蓮の花の待たるる窓辺
小夜鳥  山本らつさん・・・大阪在住     「くれない」81号所収
一羽帰る朝明の空のほととぎすわれの魂もつれ疾くゆけよ
小夜鳥ひそかに鳴きぬ夢の中われの秘密をのぞきしゆえか
「さようなら」あなたが言ひしこの五文字右へ左へこころ飛び交う
二十年止まったままの時間を待つわれの心に刺さりし棘と
春うらら風にさそわれ浮かれ行く恋う人の住む鈴鹿という町
君の髪ゆらりゆらゆら風にゆれ吾がほほにふれる春の香をつれ
春の野に君つ花はれんげ草われにふりむきこぼす笑顔よ
わが影の老いゆく姿を認めし日花を購い渋茶をのみほす


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