投稿作品
カトレア  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」647号所収
黄のリボン結びしカトレアよ黄の花我の生れ日祝う
黄色なるカトレアの鉢我が部屋にありて黄の色さゆる明るさ
黄の色が珍しいとて生れ日を祝いて賜ふカトレアの花
賜りしカトレアの鉢おおきくて部屋には置けずチャペルに捧ぐ
黄色なるカトレアの鉢黄のリボン結び生まれ日祝いくださる
一つ生甲斐   松浦篤男さん・・・青松園在住     「青松」647号所収
ペン結び代筆叶ふがせめてもの生甲斐か指は病みて失せれど
八十歳過ぎても代筆叶ふ幸万年筆にインクを充たす
患者われら励ますみ歌の碑の前を通りて今日も代筆に行く
義肢を着けやをら立つわれの代筆を頼る視覚なき友が待ちゐて
指失せ手にペン結び書く術を知りにき試行錯誤の果てに
妖怪現る   政石 蒙さん遺歌集(1)・・・青松園在住     「青松」647号所収
春雷の遠くおどろに鳴る朝ぞかそけきわれのいのち震へよ
雲低き日を鬱々と耐へてゐて雷とよもせば胸すく思ひ
紅ばらの花芯喰ひてひそみゐる甲固き虫を殺してゐたり
ばら園の下草を抜く少女たちをりふし花の中に背伸びす
温床の硝子をすきて身ゆる汗ばみしごとき赤色の花

インフルエンザ顛末  桜こと羽さん・・・大阪在住     「くれない」85号所収
うち籠りなすこともなく綴りけりインフルエンザ顛末記はや
他所事と流感のニュース見てる間に街の店からマスクが消えし
幾重にも白布を重ね端を縫ひ腕に覚えの針仕事せり
透析へ通ふ夫の面に合わせ縫ひたるマスク かなり大きい
ウイスルを恐れふつふつ湧き上がる疑心暗鬼をマスクで覆ふ
躊躇なく銀行へ入りぬ常かぶる帽子と今日はマスクもつけて
ウイルスを拒むマスクで街を行くSF映画のキャストかわれは
繭籠もりDVDの「三国志」日継ぎてし観し17巻を
白骨の叫び  山本らつさん・・・大阪在住     「くれない」85号所収
喜屋武の波はきょうも歌えり遠き日の海に沈みし人ら安けくと
身を投じ海底にねむる白骨よ幾年へしか喜屋武の海に
月さゆる喜屋武の浜に残されし白骨のかけら波に抱かるる
砂にまじり数多ころがる白骨の叫び聞こえるわれを拾えと
貝殻を拾うわが掌に寄りてくる白骨のかけら蠢きながら
貝殻になりそこねたる白骨のかけら拾いて海へと返す
波ぎわに拾いし貝の片割れは星になりたるきみのぬけ殻
星星がささめく宇宙にわれもまた身を浮ばせて言葉かわさん


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