投稿作品
機能訓練  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」663号所収
根気よく訓練したる甲斐ありて握力徐々に戻りてきたり
握力の衰えぬよう訓練機の張りたるゴムをいくたび握る
主が共に居給うゆえに寂しくも不自由も無く一日終りぬ
一人にて歩ける幸の我にあり白杖と共に生かされ生くる
杖つきて一人歩きをする盲友の少なくなりぬ皆年老いて
   松浦篤男さん 遺歌集(10)・・・青松園     「青松」663号所収
がら空となりし結核病棟の窓を蔽ひて茂るオリーブ
暑苦しく窓を開けば遠近の見定めがたく船の灯うごく
ひかりなき皆既食の月松の上に移れるを見て臥床に入りぬ
海ふかくクレーンが砂を摑み上ぐ潮の雫ひかり散らして
潮干きし桟橋にあまたつきし牡蠣照りつける日に白く乾けり
   政石 蒙さん 遺歌集(17)・・・青松園     「青松」663号所収
婚礼の席にはべりて父は酔ひ戻る道にてたふれしといふ
父の死を知らずに過ぎし一ヶ月われは毎日何をしてゐしか
復員のわれを迎へて若やぎし父なり五年まへのこと
母が逝き父が逝きたるふるさとの山川いろあせて眼にみゆ
吐くもののすでになければ熱き胃をおさへていのち絞られてゐる


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