投稿作品
緑の命  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」677号所収
ビニールの小さき鉢に土入れて枝豆の種まきおり夫は
一粒の大豆に命を芽ぶかせる自然の摂理をかしこむ我は
教会の窓辺に来たりてしきり鳴くうぐいすよ神を讃えいるのか
療園の山畑にて夫の育てある八朔を友園の友に送らん
入所者職員一つに溶け合いて盛り上りけり春の歌祭り
   松浦篤男さん 遺歌集(24)・・・青松園     「青松」677号所収
絶え間なく散る白萩が草の葉にかかりて乾く暑き日の下
成育の悪きは概ね背の白く秋日を浴びて遊ぶ豚の仔
麦蒔きの始まるらしき女木島の段畑に幾筋も煙立つ見ゆ
病友ら恐れきたりし(長島愛生園)監房が今埋めらる山を崩して
潮風にいたぶられたる藤の葉はもみぢせぬまま庭に散り敷く
   政石 蒙さん 遺歌集(31)・・・青松園     「青松」677号所収
部屋隅に漫画の本を繰りながららい病む少年けろけろ笑ふ
ぼやぼやしてゐるやうで他の子らに負けないだけの悪戯はする
腿高く座れる少女眼を伏せてピンクの糸の秘密を編めり
八年の寮父づとめに疲れつつ所詮はらい病む軀と思ふ
この朝の寒きひかりに目覚めたる口紅水仙きよきくれなゐ


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