投稿作品
虫の合唱  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」679号所収
里帰りできず留守居夫いとし我は看護婦に伴なわれ帰りけり
夫の肩かりトイレに導かる杖つきし夫有難きかな
藍染の余所行の服賜わりて我れ大切に着かせ賜わん
窓の外虫がしきりに鳴きをれど夜の白みそむ頃鳴きやめり
難聴の我を窓辺にいざないて虫の合唱聴かせくれけり
   松浦篤男さん 遺歌集(26)・・・青松園     「青松」679号所収
呉服店の勤め脱け出てきし(徳島にて)妹と時計を見つつ公園にをり
認められぬままに子を産み五年経て妹のやうやう落着きてきぬ
入所の時我を励ましくれし手紙束ねて引越しの荷の中に入るる
リヤカー一ぱいがわが荷の全てにて決められし部屋に今日移りゆく
新築の寮の木の香に涙出づ三十年の病に耐へきて
   政石 蒙さん 遺歌集(33)・・・青松園     「青松」679号所収
編集室まへの柳に秋日ひかり無休の百日やうやく過ぎぬ
秋の日は海に溶けつつ色を増し汝の来る日のほど遠からず
酔ひどれが女追ひゆきししばらくは土堤に沿ふ萩暗くそよげり
台風の近づききたり白萩も柳もふるふ日の落つるころ
一様に海に対き立つ墓碑群の陽にひかりつつ丘はしづまる


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