第1部 光を求めて
第3章 環境改善の闘い(昭和35~42年)
20 職員看護の切替えにあたって 賀 川 操
厚生省が5か年計画で、全国11園の不自由者看護を職員に切替える方針をたて、昨年その手始めとして多磨全生園、栗生楽泉園で一部が切替えられたが、私たちも患者に看護を受けるということは、同じ療養者であるため、その気苦労も多いことを思うと、職員による看護を一日も早く望んでいるのである。また、障害年金の受給によって作業従事者が少なくなり作業運営に支障をきたしている。自治会では、園に返還できる作業は返還し、統合できるものは統合してその打開に努めてきたが、今なお、不自由者看護の作業従事人に苦慮しているため、早く職員に切替えてもらうよう、強く厚生省に働きかけているのである。
私たちとしても現状を考えると、一日も早く切替えられるのを望んでいるのであり、看護を受ける立場にある者として、その時になって慌てたり、まごついたりすることのないように、盲人会においては、36年度の役員交替と共に、この問題を検討するため委員会を作ることにしたのである。
委員は、独身不自由寮から男女各1名、夫婦重不自由寮から1名、夫婦不自由寮から1名、と各層から選び、会長、副会長がこれに参加して小委員会をつくり、その名称を、「職員による不自由者附添研究会」として発足したのである。そして、すでに実施されている多摩、栗生の盲人会にアンケートを送って、資料を集めると共に、全盲連、その他の友園から送られてくる情報を参考に検討を重ね、最も好ましい状態で切替えが行なわれるよう、熱心に研究を続けた結果、次のような結論に達したのである。
一、居 住 様 式
1室6畳2名の小部屋制とする。
これは全患協及び全盲連の基本線でもあり、研究会でも検討した結果、現在、一般不自由寮に居る私たちは、1室21畳に7名が入居している。しかし、大部屋は盲人にとって広過ぎるため、方角を間違えたり、寝ている者をふみつけるなど、不便な思いをさせられている。私たちは生涯療養所でくらさなければならないので、少しでも落着いた生活をおくるためにも、1室6畳の小部屋制を希望している。
食堂については、職員看護の場合3交替制となるので、食堂があれば、少ない職員でも食事の介助が行届くし、そこを娯楽室にも利用できて便利だと思う。それに食堂に来られない者は、居室において食事をとらしてもらえるのであるから、来られない者の心配はないのである。
大島の狭い地形からみて、1棟を6部屋とし、その中間に食堂を設け、南側に3尺の内縁、北は一間の廊下を通し、3部屋毎にトイレと洗面所をつくる。玄関は道に面した方につくり、こうした様式の棟、3棟ないし4棟を一間の渡り廊下で「ヨ」の字形につなぎ、1ブロックとする。看護詰所、風呂場、配膳室、物置等は渡り廊下に沿って設け、私たちが生活し易いように、また看護を受けやすいように、と考えたものである。
二、職 員 の 定 員
特別重不自由者2名に対し1名
その他不自由者4名に対し1名とする
現在、重不自由者看護は3名に対し1名の住込み附添がついているが、最も重度の障害を特った者ばかりであり、これでも十分な看護状態とは言えないのである。
職員による看護切替えが行なわれる場合、障害度に応じて持重、重、中、軽の4段階に区分されると思うが、盲人は障害度からいっても特重に該当することは明らかであり、この2対1、4対1の定員は是非確保してもらいたいと思うのである。
三、入居の組合せは盲人同士とする。
私たちは障害度の違う晴眼者と長い間同居してきたが、一般不自由者看護は、食事の世話とトイレ、廊下の掃除程度で、室内の掃除などは寮の比較的元気な人の負担となっており、私たち盲人は常に晴眼者の手をわずらわせ、気がねや気苦労の多い生活をしてきたのである。従って、入居の組合せには是非盲人同士としてもらいたいのである。
四、切替えに当っては盲人を優先してもらう
一般不自由寮にいる者は、治療棟に行かなければ治療が受けられず、雨が降るときなど、杖を特てば傘をさすことができず、濡れて行くか治療を休まなければならない。また日常においても不自由しているので、切替えが実施される場合は、重度の障害を持った盲人を優先させてもらいたいのである。
なお業務内容については、不安のない十分な看護が受けられるよう、必要な業務内容を具体的に出しているのであるが、ここでは省略する。
以上述べてきた項目は、私たちの体験を生かして慎重に検討したものであり、7月19日には臨時総会を開き、項目ごとに確認し、全員の賛成を得て、盲人会の基本的な態度を決定したのである。
職員による不自由者看護の実施に当っては、この私たちの希望を是非取入れて頂き、重度の障害を持つ者が安心して、潤いのある生活が出来るようにしてもらいたいものである。
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