わたしはここに生きた   <盲人会五十年史> 国立療養所大島青松園盲人会五十年史

                   本書をハンセン病盲人に愛と理解を寄せられた多くの人々に捧げる

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第1部 光を求めて

 第3章 環境改善の闘い(昭和35~42年)

 26 テープ文庫の設置
            島 田  茂

 去る39年に待望の占字図書室が設立され、そこには篤志家や点訳奉仕者から寄贈された書籍、また厚生省から盲人文化の高揚をうながすために毎年配布される点字書籍などが、整然と並べられている。だが、この点字書を利用できる会員は限られており、その人たちにしても、命をすりへらすような舌読によるものである。一冊の本を熟読して血とし肉とするには、想像にあまる時間とエネルギーを費やさなければならない。こうした努力によってでも点字の読める者はよいが、会員の多くは障害度が高く、その恩恵に浴せないのがいつわらない実状である。
 このような会員の中から、容易に聴読できるテープ文庫の設置を望む声が高まり、会ではその要望に応え、今期の事業計画の1つとして採りあげることにしたのである。テープ文庫の設置にはかなりのテープが必要であり、その事情を自治会に説明し、さしあたって30本の更生テープの購入方を依頼しておいた。しかし、とても30本では足りず、これまで会へ寄贈されているテープに加え、乏しい会計から捻出して購入し、少なくとも100本程度を目標に、設置を計画したのであった。
 私たちのこの計画を、自治会は理解しバックアップしてくれるものと思っていた。処が自治会では、青松会特別会計の都合で、海老沼分館長に依頼し、外部の篤志家や団体に働きかけ、寄附をあおいでいたことを後で知った。晴眼者のために投じている映画、図書、新聞などの経費にくらべると、私たちの教材であるこのテープ購入費は全く僅少な額ではあるが、窮屈な青松会予算から出してもらおうとは考えておらず、身体障害者諸費からでも購入してもらうことを望んでいたのである。
 聞くところによると、友園の盲人会では自治会の支援によって施設当局を動かし、身障費、期末調整費などから杖、眼鏡はもちろんのこと、盲導施設の整備、カナ文字タイプ、またテープ文庫の設置にあたっては書棚をはじめ、数百本のテープ、貸出し用のテープ・プレイヤーまで整えられたという。そして、今年も継続してテープとテープ・プレイヤーの購入、さらにテープ係として作業人の増員を要請し、文庫の充実をはかっているとか。なお羨ましいことには看護婦、看護助手が勤務時間外を朗読奉仕に協力し、盲友の心に灯をともしていることである。支部事情によってはこうも異なるものだろうか。今更この事をとやかく言っても仕方がないが、これを契機に、われわれの切望しているテープ文庫設置を、国家予算化にまでおし進めてもらいたいのである。
 今や盲人とテープは不可分となっており、毎月日本ライトハウスより借用のテープ図書、各友園から回送される声の機関誌、交流を深める声の便りなど、7、80本のテープが会の窓口を通っている。これらのテープを広く活用してもらうため、会ではテープ・プレイヤー1台を貸し出し用に当てているが、使用度がはげしいので故障が多く、従って忘れた頃にしか回って来ず、会員から不満の声が出ている。かりに会で使用している3台のテープ・レコーダーを全部貸し出したとしても、80名の会員に割ると、1人1か月僅か1日程度にしかならない。
 通りいっぺんのラジオでは、私たちが欲している知識や教養を身につけることはできず、会員の中には乏しい経済状態をやりくりして、高価なテープ・レコーダーを購入する者がふえつつあり、私も年老いた母のすねをかじって、テープ・レコーダーと少しばかりの更生テープを手に入れることができた。それを利用してうとくなりがちな政治学、空虚さをうめる文学、情操をやしなう名曲などをラジオから収録し、時には文字にかわる声の便りとして故郷と療園をつなぎ、友人知己との心をむすび、無味乾燥な日々にうるおいを覚えている。テープ文庫に夢をかけるとき、失なった文字が再現され、記憶の底から風景がほのかに匂ってくる。闇の世界には目で見ることのできない真実の愛がひめられ、真実の言葉がかくされている。暗黒に呑まれた光りが生き生きとよみがえり、不毛の地に知識の種子をまき、情操の花を咲かせ教養を豊かにみのらせてくれる。
 ともあれ、先に述べたいきさつはあったにしても、海老沼分館長の呼びかけによってか、テープ文庫の設置に当ててほしいとの寄附金やテープが送られてきているのは、大きな感激である。
 1本のテープ図書を作成するには、まず本を選び、朗読者への依頼、それを収録し、あるいはプリントするなど、声の図書として使用できるまでには、相当の労力と時間が必要である。私たちの周囲には温い目で会を見守リ、支援してくれる幾人かの協力者がいるが、設置にあたっては更に多くの人たちの助力をあおがなければならない。
 テープ図書、テープ・レコーダーは見栄でも賛沢品でもなく、盲人に欠かすことのできない補装具なのである。全盲連においても、テープ・レコーダーの個人支給をふくむ、盲人教養文化費の国家予算化を目標に、運動をおし進めている。私たちのこの努力が、自治会並びに施設当局の理解を得て、実現されることを望んでやまない。





「わたしはここに生きた」大島青松園盲人会発行
昭和59年1月20日 発行


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