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第2部 「灯台」の群像
第6章 闇からの開放
69 川柳
白 盛
振り返ることを残して今日もすぎ
雨だれの音も久しい我が家なり
その昔兎を追った山も失せ
石仏に弱い心を諭されて
しっかりと握る鯛焼あばれおち
瀬戸大橋の完成までは頑張る気
生きていること素晴らしいこの苦労
不義理また重ねて老いの筆不精
老人呆けしたとは他人だから言え
ショベルカーに打ちくだかれた鬼瓦
渡 辺 柳 狂
よう畳拭くなと子猫戻ってき
愛憎か愚痴かある日の蟹の泡
濁流を容れて許した海の碧
泣かされたように眼科は出るところ
療養所親子で暮す不仕合わせ
不精者にもサボテンは花をつけ
負けて泣き勝って泣いている甲子園
行き合って何か話したような蟻
テレビから笑いを貰う老夫婦
自家用と洒落て出てゆく車椅子
故 島 赤 水
一厘の差でタイトルはそっぽむき
折詰へ浮かぶ郷里も花見時
四畳半花瓶の百合へひざを向け
島を去るナース記念樹置いて行き
開眼へ寄せる希望に胸おどり
故 下 村 幸 三
窓八分閉めて視察の数を読み
看護助手子になり母になってくれ
幸福は手紙の中に入れてくる
スポーツが好きで無理してラジオ買い
探り杖今日も出て行く読書会
故 前 田 野 菊
失明をして川柳の良さを知り
台風に義足の歩み取られそう
雨降りの雑布掛けを猫がさせ
故郷の電話が義足あわてさせ
盲導鈴出来て風呂への道を知り
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