わたしはここに生きた   <盲人会五十年史> 国立療養所大島青松園盲人会五十年史

                   本書をハンセン病盲人に愛と理解を寄せられた多くの人々に捧げる

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第2部 「灯台」の群像

 第6章 闇からの開放

 68 俳句           

                   里 見 一 風

ゆく所なし海に抱かれで寝正月

誰いうとなく世捨路が磯あそび

新薬の入荷のうわさ春近し

郷の娘の声待つ受話器火取虫

蟷螂や合掌書きに馴れるまで

空海忌法座明治の顔ばかり

秋耕や植眉に汗を受けとめて

郷の香を抱かせてもらい山笑う

陳情団送る桟橋蟹の群

春かなし恩師は阿字の古里へ

                  芥   亀 城

面会の父と別れし櫨紅葉

種物の袋とばせし春の風

                 故 揚 田 五 月

久々に這ひ出し縁や菊薫る

ストーブに寄せて貰うて治療待つ

                 故 岩 本 春 花

病床をあげて嬉しき衣更

膝に手を重ねて暫し初桜

                 故 大 原 枝 風

病みつのるものの芽時を恐れつつ

松葉杖かたへに座すや浜小春

                 故 岸 野 月 兎

盲人の裏表なきちゃんちゃんこ

病室の窓閑として柳散る

                 故 酒 井 金 城

虫の音の細りて島の秋はゆく

青嵐や波の寄せくる杖の先

                 故 種 野 月 鳥

所長碑をかこみて盆の踊かな

留守居する盲ばかりの夏座敷

                 故 日 高 白 藤

ラジオより聴く古里の除夜の鐘

                 故 峯 野 友 弥

便りなき母が気になるちちろ虫

こっそりと帰る故郷蛍飛ぶ

                 故 山 本   瞳

なえし手におぼつかなくも毛糸編む

団扇風もらいつ別れ惜み居り

                 故 太 田 光 年

病よし友の肩かり花疲れ

この蟻をはなせば下は蟻地獄

捨てうちわ我身の如くいとほしむ

病むわれをあなどり覗く羽ぬけ鶏

落日に舞ひし落葉よなぜ急ぐ

                 故 渋 沢   晃

吾が足跡消ゆ雪の上に雪降りて

一輪を嗅ぐ梅林の香の中に

春の潮満ちし時鳥美しき

犇めけり月の干潟に生充ちて

身の行方霧の中なる三十代

 

  




「わたしはここに生きた」大島青松園盲人会発行
昭和59年1月20日 発行


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