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第2部 「灯台」の群像
第6章 闇からの開放
68 俳句
里 見 一 風
ゆく所なし海に抱かれで寝正月
誰いうとなく世捨路が磯あそび
新薬の入荷のうわさ春近し
郷の娘の声待つ受話器火取虫
蟷螂や合掌書きに馴れるまで
空海忌法座明治の顔ばかり
秋耕や植眉に汗を受けとめて
郷の香を抱かせてもらい山笑う
陳情団送る桟橋蟹の群
春かなし恩師は阿字の古里へ
故 芥 亀 城
面会の父と別れし櫨紅葉
種物の袋とばせし春の風
故 揚 田 五 月
久々に這ひ出し縁や菊薫る
ストーブに寄せて貰うて治療待つ
故 岩 本 春 花
病床をあげて嬉しき衣更
膝に手を重ねて暫し初桜
故 大 原 枝 風
病みつのるものの芽時を恐れつつ
松葉杖かたへに座すや浜小春
故 岸 野 月 兎
盲人の裏表なきちゃんちゃんこ
病室の窓閑として柳散る
故 酒 井 金 城
虫の音の細りて島の秋はゆく
青嵐や波の寄せくる杖の先
故 種 野 月 鳥
所長碑をかこみて盆の踊かな
留守居する盲ばかりの夏座敷
故 日 高 白 藤
ラジオより聴く古里の除夜の鐘
故 峯 野 友 弥
便りなき母が気になるちちろ虫
こっそりと帰る故郷蛍飛ぶ
故 山 本 瞳
なえし手におぼつかなくも毛糸編む
団扇風もらいつ別れ惜み居り
故 太 田 光 年
病よし友の肩かり花疲れ
この蟻をはなせば下は蟻地獄
捨てうちわ我身の如くいとほしむ
病むわれをあなどり覗く羽ぬけ鶏
落日に舞ひし落葉よなぜ急ぐ
故 渋 沢 晃
吾が足跡消ゆ雪の上に雪降りて
一輪を嗅ぐ梅林の香の中に
春の潮満ちし時鳥美しき
犇めけり月の干潟に生充ちて
身の行方霧の中なる三十代
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