投稿作品
よろこび  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」628号所収
マフラー編みくれし娘が人生の良き伴侶得て嫁ぎゆくなり
三月に挙式する故証人として出席をされたしと言う
老い我ら結婚式に臨まんと風邪ひかぬようつつしみ過ごす
礼服を持たざるままに過ごしきて七十路の今誂えにけり
老い我らの何を好むやこの二人身内の如く慕いくるるも
高価な点滴   松浦篤男さん・・・青松園在住     「青松」628号所収
足腫れるば高価な点滴給へり生きて甲斐なき不具の身なるに
八十歳の不具の身に勿体なく思ふ足が腫れて受く高価な点滴
足腫れるば即高価なる点滴を受くるもなべて国費の療園
足によく合はせて義肢を造り給ひ傷のできぬに頭の下がる
眼閉づれば義肢のやたらにふらつくに黙祷の一分立つが辛しも
鎮魂  政石 蒙さん・・・青松園在住     「青松」628号所収
ハンセン病ゆゑに子孫を遺すなと断種手術を強要なせり
無理遺りに堕胎させたるみどり児を何故標本となし遺せるや
ホルマリン漬けの堕胎のみどり児の泣くが聞こゆとその母嘆く
鎮魂の碑を建立し無理強ひの堕胎の罪を償はむとす
鎮魂の碑を前になし堕胎させられし女らの思ひ深からむ

桜・さくら  桜こと羽さん・・・大阪在住     「くれない」59号所収
ひとつ家に暮らす願ひは叶はざりきすみれ添ひ咲け父母の墓標に
寺庭の墓を寡黙に引く僧の後ろに残るすみれ蒲公英
川の面に散りては流れ消ゆを見す老いの影さすふたりに花は
桜花おもひおもひにゆるらかな生命線を描きつつ散る
野遊びに紛れたるらしゆくりなく手提げより出づる花のひとひら
蝶に化す日を夢に見てサラダボールの春を貪る青虫われは
春うららうつらうつらのうたた寝にうしほ満ちくる浦をもとほる
ポストまで歩いて二分を公園の枝垂れ桜に呼び止められつ
野うさぎの昼寝  山本らつさん・・・大阪在住     「黒曜座」53号所収
生と死がこの宇宙の掟 蜘蛛の網に掛かるがごとく待ち構えおり
うすら陽のさし込む窓辺ゆらゆらと己が生命燃え滓浮かべり
果てしなきこの宇宙に在る地球とは我にとりては四畳半なり
ひさかたの心に湧きたつ微笑を無も間にのぞく太陽と交しいる
蝶の生命 人間から見れば短くも蝶にとりては長き一世ぞ
蝶のごと木木に咲きいる木蓮の白き花花天空を飛べ
降りしきる木の葉の中に佇めば吾も一本の木のごとく在り
濃紫われの心を染めぬきぬ万葉の地に佇みおれば
薄青き真昼間の月浮かびおり金の光は闇に置きしか


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