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祈り 東條康江さん・・・青松園在住 「青松」631号所収 |
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■ 風邪ひきて我は日曜礼拝を休み静かに部屋にて祈る
■ 癒ゆるにも病むにも時のあるという主の御助けを我は祈りぬ
■ 一本の点滴注射に沁みて僅かなれども食欲出でぬ
■ 一椀のうどんに力与えられ長病む風邪に立ち向かうなり
■ 風邪病みて声の出でざる我なりき御前に祈るみ栄えあれと
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正視受くる世 松浦篤男さん・・・青松園在住 「青松」631号所収 |
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■ 正視の世に永らへて遇ふ病み隔離されて選挙権なき日ありしに
■ 病みて子なく果つるを寂しみ座す浜にさざ波は西へ移るがに見ゆ
■ 生き過ぎと思ふ祈りあり病みて世に出でぬままの身八十歳となりぬ
■ 自活ならず国費に生かさる不具の身のゆゑに権利を禁句としたり
■ 乾きたる向かひの切岸暮れ残り療園にまたひと日過ぎたり
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枠の名残り 政石 蒙さん・・・青松園在住 「青松」631号所収 |
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■ 隔離の枠解かれ癒ゆるも尚枠の名残の中に生きゐる我ら
■ 歩行器の歩みたどたど自動ドア四つくぐりて通ふリハビリ
■ 体調の語になぞらへし我が造語脳調の今朝は殊に勝れず
■ 女童の拾ひ集めし松毬の一つを我に残しゆきたり
■ 飽食の日本の子らよ思ひ見よ戦禍に飢ゆる異国の子らを
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誕生日 桜こと羽さん・・・大阪在住 「くれない」61号所収 |
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■ みささぎの濠のさざ波押し分けて行く軽鴨の一列の春
■ 軽鴨の後ろに葦の角の見え沼の深みに立つ鬼がゐる
■ 竜田川からくれなゐの反り橋をわたる業平もどきの歌友
■ 竜田川沿ひの楓に蓑虫の枯葉の庵あり五十戸ばかり
■ 生駒郡竜田川字楓村二番地一号蓑虫庵此処
■ 誕生日を無職の夫とよく回る寿司屋にて祝ふ中流意識
■ 寿司皿の出口より出で入口へ入り消ゆるまで似てをりひと世
■ 納豆の色なす過去などありまして描く未来を玉子の色にす
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蝉が鳴く 山本らつさん・・・大阪在住 「黒曜座」54号所収 |
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■ この宇宙に響き渡れり蝉の声我が身の五臓も蝉色に染む
■ 滝音のやうに鳴く蝉が鳴く我が魂の垢を洗ひ浄めよ
■ 鳴く蝉の声に包まれ夢を見ぬ万華鏡の中さ迷うごとく
■ 蝉語聴く真夏の庭の木の下で去りゆく生命と何を語れり
■ 残しゆく未来の生命楠の木の根の奥深く潜めしと言ふ
■ 魂を失くせし蝉の抜け殻をカラカラカラと風が転がす
■ ぱっちりと眼を開き空仰ぐ死したる蝉の魂水色
■ 生命終え路に転がる蝉一匹 神興のごとく蟻ら担ぎぬ
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