投稿作品
恵みに生きて  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」633号所収
夫と我五十五年の道程を歩み来たれり恵みに生きて
貧しさを堪えたる日々を思いみる豊かになりし今を生きつつ
骨堂に眠る人らの幸せをもらいて我ら生かされる日々
感謝なしつつ日々を歩みゆく我ら目指すはダイヤ婚なり
あと五年生かされ生きてダイヤ婚祝える幸を主よ与えませ
島の水事情   松浦篤男さん・・・青松園在住     「青松」633号所収
待てど降らず給水制限なほつづく隣の九州水害伝ふに
渇水のつづけど期待す常移りくる九州の豪雨聞きて
九州での水害雨及びこず節水の放送今日も聞くとは
遠き高知ダム満水に安堵する島のわれらも縋りゐるゆえ
トイレにてやたら流すも五十年前は飲めざりし本土の真水
ある日ある時  政石 蒙さん・・・青松園在住     「青松」633号所収
復古調演奏半ばに指揮棒を突如投げ捨て首相後壇す
侵略を開放に置き替へ戦争を美化なす首相をわれ疎みきつ
健やかに生きつぐ人の幸せを讃ふるテレビの「百歳万歳」
ハンセン病療園の行く末見届けむゆめにこだはり生くる晩年
八百年を生きたる松も虫害に幹洞なして自ら倒れつ

  桜こと羽さん・・・大阪在住     「くれない」62号所収
腎を病む夫に名所のとほければ本にて花の百景を愛ず
朝霧のけぶる桜の下にたつやうに夫の見てゐる写真
腎を病む夫と見てゐる花筏こぎ行かむかな昔の春へ
夜桜のはないろ白く神さびて広ごる花の闇を支配す
魂きはる命の果ての花の塚しかと見届け百景を閉ず
ゆく春の水に流るる花びらに水底のかげ添ひて流るる
雨に泣き晴れにほほ笑み花を追ふ春のこころは日めくりのやう
散る花の行方を追へば西空に往きて還らぬものら手を振る
生命燃やせ  山本らつさん・・・大阪在住     「くれない」62号所収
この宇宙に響き渡れり蝉の声 我が身の五臓も蝉色に染む
鳴く蝉の声に包まれ夢を見ぬ万華鏡の中さ迷ふごとく
滝音のやうに鳴く鳴く蝉が鳴く我が魂の垢を洗ひ浄めよ
蝉語聴く真夏の庭の木の下で去り行く生命何をば語れり
生命終へ路に転がる蝉一匹 神輿のごとく蟻担ぎぬ
この冬の生命の糧と運びゆく蟻の行列 生命の連鎖
ぱっちりと眼を開き空仰ぐ死したる蝉の魂水色
死ぬるため地表に出でし蝉たちよ温き太陽浴び生命燃やせ

わたしのイーハトーヴ  大坪 冨美子・・・北九州在住     
北上の川面に透くる岩容の荒ぶる真夜や顕ち騒ぐらむ
賢治在す種山ヶ原はこちらです笑みて誘ふめばち草は
いくそたび賢治通ひし道ならむ種山ヶ原に吹く風蒼し
あらっきのこ種山ヶ原の道の辺に”どってこ””どってこ”君云ひましし
友どちと種山ヶ原歌ひゆく童心何ぞ嬉しき
どれも皆黄金の真かねた君どんぐりころころポケットに鳴る
草の実を沸ふ嬉しき夢ならず賢治と遊ぶ種山ヶ原

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