閉ざされた島の昭和史   国立療養所大島青松園 入園者自治会五十年史

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あとがき    

 毎年夏になると、多くの若い男女の学生たちが、ワーク・キャンプに来園されます。怖れも、差別感も持たず、人間対人間のあたたかい交流がつづけられています。いわれのない偏見と差別に肩をすぼめ、世の片隅で生きてきた者たちにとって、それは青い海の輝きであり、さわやかな風であります。 初めて来園された方々は「入園者の皆さんがとても明かるい………」と言われます。「世捨島」と呼ばれた時代はすでに遠く、療養所も、そこに住む人々にも、少しずつ近代の陽が当たるようになりました。その明かるさは、長い歴史を越えてもたらされたものです。それがどんな軌跡であったか、どんな状況をくぐりぬけてきた明かるさであるのか、本書を通して、見直していただければ幸いです。 青松園の入園者自治会(協和会)の誇り得るもののIつとして、五〇年間、一日も欠かさず書き継がれてきた「自治会日誌」があります。その時代、時代のできごとを詳細に書きつらねています。大学ノートに書かれた古い日誌は色琵せ、綴じ糸はほつれ、戦時中のものは雑用紙の手製であり、そこにも長い歳月の流れが感じられます。 本書の編纂にあたっては、その自治会日誌を唯一の頼りとし、古い「藻汐草」誌、戦後の「青松」誌ほかの文献を参考にし、さらに当時の古老たちの体験談をもとに集約しました。特に、忘れ去られ、朽ち果てようとしている古い時代に重点を置き、誇張することなく、正確に、事実を書くことに心がけました。
 本書は自治会の五十年史でありますが、表題は「閉ざされた島の昭和史」としました。苦難の歴程を経て、いま、開かれつつある時代になりましたが、さらに「重い歴史」から開かれることへの顧いをこめ、現在の職員、入園者のほか、世の多くの人たちにも読んでいただき、将来の療養所や、医療行政の在り方につ いて考えていただきたいからであります。
 自治会執行部の委託を受け、本書の編纂にとりかかったのは五五年二月下旬でした。短かい期間でしたが、なんとしても五六年三月八日の、自治会創立五十周年記念日までに発行したいという、切なる顧いのもとに、日夜、編纂の作業にはげみました。しかし、不行きとどきなところも多いと思いますが、それは編纂委員の非力のせいとして、おゆるしねがいます。
 最後になりましたが、資料の提供や、ご協力下さった方々、制作について特別のお骨析りをいただいた讃文社の永田敏之氏に封し、厚くお礼申し上げます。

編纂委員会

中石 俊夫
斉木  創
吉井 直人
坂崎 知能
土屋  勉(特別参加)

 



「閉ざされた島の昭和史」大島青松園入所者自治会発行
昭和56年12月8日 3版発行


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