わたしはここに生きた   <盲人会五十年史> 国立療養所大島青松園盲人会五十年史

                   本書をハンセン病盲人に愛と理解を寄せられた多くの人々に捧げる

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第2部 「灯台」の群像

 第6章 闇からの開放

 66 詩          

                垰 八十二

眠れぬ夜

 

時計が十二時を打っている

眠れない どうしても眠れない

右に左に寝がえりをうって

あせればあせるほど眠れない

左半身を布団から出してみた

涼しくて気持がよい

しばらくすると誰かが そっと布団に入れて

きちんと直してくれて静かに出て行った

ああ巡回の看護婦さんだ

私はとても嬉しかった

子供の頃 遊び疲れた夜

布団からはね出していると母が

幾度も抱いて布団に入れてくれた

このような優しい愛情に

絶えず見守られているのだ

そう思うと わたしは

両の眼頭が熱くなるのを感じた

眼の中一杯に広がり

あふれ出る熱いものが

ぽたり 一つ……また 一つ

 

熱の日の味噌汁

 

ミソ汁の匂いが ぷんと鼻をつく

朝のご飯だなァ……

布団から顔を出す

床頭台のミソ汁が呼んでいる

熱と神経症で四日ほどほとんど食べていない

 

起き上って吸おうとした時

思わず「ゲッ ゲッ」と二、三度こみ上げてきた

――吸われない!

吸うのを諦めた私はぼんやりとした頭で

もう一つ別の汁の匂いを感じていた――

大鍋一Iぱいたいたミソ汁

帆立貝のシャモジでよそって貰い

二はいも三ばいも吸ったことのある

懐しいミソ汁! ふるさとの汁の味

私はその匂いと湯気の中に

しばらくまどろんでいた

 

  




「わたしはここに生きた」大島青松園盲人会発行
昭和59年1月20日 発行


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