投稿作品
孫よ  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」632号所収
女童が両手をつきて「こんにちは」挨拶くるる見えざる我に
女童の二歳を前に作法誰が教えしか賢き孫よ
女童の孫よどのように育ちゆくや歌か踊りかはたまた劇か
父母の恩を忘れず健やかに育てと婆は祈り願いぬ
屋島水族館   松浦篤男さん・・・青松園在住     「青松」632号所収
屋島嶺の水族館にてジャンプする海豚の背の一瞬反す陽
ひと口の餌につられて芸をする海驢は鰭打ち拍手求むも
覗きこむわれらを如何にいてゐるや水族館に飼はる魚ら
大海とみて泳げるや水槽に窮屈そうに飼はるる魚ら
水族館に今日は来て魚見飽かざり義肢にて歩行なほ叶ふ幸に
平和こそ  政石 蒙さん・・・青松園在住     「青松」632号所収
美しき国よりも平和なる国でありたしと願ふ庶民われらは
弱き者の生き難き世と為しにつつ美しき国に為すと言ひ張る
憲法を守る守ると言ひながら改悪の方針を変ふる気のなし
一般の踏み入り難き領域の防衛省の汚職暴かる
戦争を悪と思はぬ雰囲気に心ゆるみしや本音を吐けり

鉄ジラフ  桜こと羽さん・・・大阪在住     「くれない」63号所収
休日のとある港に並びゐるクレーンは鉄のジラフのかたち
サバンナの草の匂いひを懐かしむ鉄のジラフは万緑の中
前の世に還るあてなく海霧に鉄のジラフの路は途絶えし
港に立つ鉄のジラフの魂を載せ幽霊船が夏霧に消ゆ
ひと夜さをかけて燃えつきたるらしも渦巻く舵取り線香の灰
無の空に光る花火は一瞬の閃きの生む歌に似てゐる
盂欄盆の瓶にしづもる鬼灯の朱をたよりに還り来る我
生命の形  山本らつさん・・・大阪在住     「くれない」63号所収
異国より来たりし魚の泳ぎいる水槽の中の小さき地球
声かくれば背びれ尾びれをリズムよく揺らし答えぬ水槽の魚
何かを語りたそうに口動くアジア生まれのトーマシーは
まばたきもせず見つめ合う魚と我の間を分かつ五ミリのガラス
「帰してよ私の生まれたメコン川に」大きく口あけトーマシーの叫ぶ
ここで生きここで終らんこの魚の魂はいつもメコン川泳ぐ
この宇宙に我も住みおり人間として生きいる生命の形 違えど

わたしのイーハトーヴ  大坪 冨美子・・・北九州在住     
喧騒の街を遥かに異次元へ列車よ秋を突き抜けてゆけ
目を凝らし鼻孔を開き耳澄ますここはみちのく君が産土
君が旅ここに始まり銀河へと軽便鉄道の石碑に佇つ
ジョバンニが最後に残るからくり時計銀河鉄道のうつつぞあわれ
銀色の葉裏返しつさやぐ声直なる君よギンドロの木々
恩愛の相克互に激しかる父と息子の墓並びて立てる
髭曼荼羅と師はさし給ふ墓の前生きる限りのわれも修羅なり

Copyright © 2006 各作家さま all rights reserved.