投稿作品
喜寿の祝い  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」649号所収
故郷の街に帰りて敬老の喜寿を友らと共に祝はん
故郷に住む人は人我も人権復帰の成りたる今を
故郷の街は良きもの夫に手を引かれて帰る我の幸也
故郷の友も老いたり我も老い人間復帰の成りたる今を
我の喜寿祝い盛花持ちくれしかるく握手すお大きなる手
惰性の生   松浦篤男さん・・・青松園在住     「青松」649号所収
指示守り各科の定期健診受く生きて甲斐なき不具の身なれど
検診も惰性にて指示通り受く国費に生かさるる不具の身なれば
定期検診受くる気起きず不具の身を補ひ合ひし妻も亡きいま
完治してアメリカ旅行せし療友が帰郷叶はず癩なりしゆゑ
癩差別払拭せむと今日も発つ絶滅後五十年を経てなほ
   政石 蒙さん遺歌集(3)・・・青松園     「青松」649号所収
明るき灯の下に盲の幾人が手探りに床をのべゐるところ
踊の輪離れて踊る盲女に櫓の灯かげやうやく届く
隣家の窓に射す日の射返にやうやく我の部屋が明るむ
二階より見透かさゐる心地して窓のガラスに今日紙を貼る
崖上の道ゆく人の足ばかり身ゆる窓辺にゐて疲れたり

秋深む山  桜こと羽さん・・・大阪在住     「くれない」90号所収
あしひきの山の井に湧く真清水の絶へざるごとき秋の食欲
食べ頃の熟柿を鴉より早く糖尿病の姉が指さす
秋深む山の裾野に縄文のをみなもせしか木の実拾ふ
手のひらに木の実ひとつ転ばせて「どんぐり」一語覚ゆるをさな
果つるまで直立不動を強ひらるる一輪咲きの菊のストレス
空っぽの燕の巣より枯草の垂れて晩秋の風に揺れをり
ハロウィンを彩る二色は何でせう かぼちゃと魔女の三角帽子
カレンダーの残りは二枚ベランダに雀の置く影いつしか延びて
四国・大島の青松園にて  桜こと羽さん・・・大阪在住     「くれない」90号所収
宿業と呼ぶには重きその病友は心を詩に言寄せぬ
十五の歳 入れば出られぬその大島に父母に連れられ門を潜りぬ
空を飛ぶ鳥よお前は知りおるかこの白砂に埋めし想い
長すぎず短すぎずに時は過ぐ六十年という名の歳月重し
入れば出られぬ それを知らずに潜りたる十五の乙女の時間を止まらせ
美しき松の木の下眠りたる平家落人は白骨と化し
「墓標松」は眠れる御霊の想い籠め天に伸びゆく白骨を抱く
「悲しみの松」の聴きいる子守唄 波の波動は落人の囁き

Copyright © 2006 各作家さま, all rights reserved.