投稿作品
さわやかな風  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」653号所収
教会の窓辺に鳴ける鶯の声幼くて主をほめいるか
礼拝を終えて出ればさわやかなさつきの風の吹きぬけてゆく
生も死も聖手にゆだねし我が人生安けし安すし聖名をたたえん
はかなきは人の命か友逝きて何もなしえず呆と座しおり
春彼岸過ぎて雨降る昼下がり炬燵に暖とる夫と我は
足の腫瘍   松浦篤男さん遺作・・・青松園(六月十二日永眠)     「青松」653号所収
十七年固き義肢にて苛みし臑ゆゑ遂に傷となりたり
傷癒えず腫れし足抱へ寝ねて耐ふ不具の身寄せ会ふ妻も亡きいま
身の痩せて妻が付ききりに看てくれき足の癌手術の十七年前は
足の腫れ引かず籠るに容赦なく妻の三回忌の供養の日迫る
生き甲斐なき不具の身なれど医師の指示ゆゑ飯も甘きも抑ふ
   政石 蒙 遺歌集(7)・・・青松園     「青松」653号所収
一年の大方は手に傷ありて束の間の癒えをよろこびとする
手の傷の癒えたる今朝は押入につくねて置きし下衣を濯ぐ
塩辛き井戸水のみの島に棲むここのなめくぢは塩にもとろけず
ピンセットを巧に使ひ稿を綴づ克服したる不自由のひとつ
ちり紙の支給を受けて帰るみち生活をもたぬ我らと思ふ


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