投稿作品
ロタウイルス  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」654号所収
病室に夫訪いたれば下痢嘔吐止まりしと言う安堵す我は
絶食の一日が過ぎて昼食に粥半食を食せりと夫
常ならば空気のような夫になるに入院なして留守居は淋し
癒されて夫退院し我が部屋にふたりの暮らし戻り来たりぬ
胃カメラの検査受けるべく絶食の朝はひとしおひもじさ覚ゆ
足の腫瘍   松浦篤男さん遺歌集(1)・・・青松園     「青松」654号所収
幹たかき松の根蔽ふ青き笹触れては笹の音をすがしむ
青海の果ては霞と融け合ひてわが住む島に春は春にけり
傷できる度に短くなる指を人にかくして年を経にけり
力なき左手指の無き右手袖ひ合ひて日々の過ぎゆく
握る力なくなりし手にペン結はへ書くことも覚えぬ病み古りにつつ
   政石 蒙 遺歌集(8)・・・青松園     「青松」654号所収
国費にて養はれゐる卑屈感疲れしときに心を占むる
傷痍年金貰はむとして忘れたき過去をつぶさに述べ認むる
秋空にいのち吸はるる思ひしてだるき軀を草にゆだねる
飛行雲仰ぎつつきて治療棟の暗き人口にしばしためらふ
勲章に似し菊ありて冷え冷えと匂へるなかを通り過ぎたり


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