投稿作品
終末を生きる  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」657号所収
療園の終末生く老い二人朝茶を呑みて一日はじまる
子や孫は我らの老になけれども静かに茶を飲む幸せのあり
介護婦に頂きし賀状読みもらい健やかにいる友を喜こぶ
草津より花インゲンのナットウを送り下さる人あたわりて
ナットウを口に入れつつ茶をすすり生きる幸せしみじみ思ふ
   松浦篤男さん遺歌集(4)・・・青松園     「青松」657号所収
繃帯巻きサポーター嵌め麻痺したる足に時かけて旅支度する
降り立ちし庵治の港は玉筋魚(いかなご)のしるく匂ひて人影のなし
島を発ち岬廻れば本航路巨船の波にわが船ゆらる
男木島南を受くるひとところ古き人家がひしめきて建つ
澄めるあり濁れるありて讃岐路のどの溜池も水満ちてをり
   政石 蒙 遺歌集(11)・・・青松園     「青松」657号所収
歌会果てて友ら帰りし夜の更けに冷くなりし茶を独りのむ
癩を病む苦に耐へきれず自殺せし母は母なり我は生きゆかむ
玩具の鶏の腹より転び出し瀬戸物の卵が灯にひかりをり
玩具の鶏が産みたる瀬戸物の小さき卵を手にあたたむる
埋火のほのかなる温みに手をかざす夜更は殊にこころ渇きて


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