投稿作品
山の幸  東條康江さん・・・青松園在住     「青松」669号所収
山畑に栗の苗木を植付けに行きし夫は八十二才
植てより三年をへねばならぬとう栗の実るを待つしあわせ
山畑の大カブ子カブ白菜を作りて夫都の友へ
療園の我らを父母としたいくれ幼き子供つれて逢に来
嬰児をつれ問いくれし御夫婦は島に宿て交りくるる
   松浦篤男さん 遺歌集(16)・・・青松園     「青松」669号所収
棚田の稲刈る弟が鎌持ちしまま一年ぶりのわれを迎ふる
製材所の手が抜けぬと言ふ弟は祭の休みに稲を刈りをり
柿の木の下に座りて柿を食ふ故郷に帰りし心幼なく
五年前出でし日のまま金網の破れし鶏舎も牛小屋もあり
日焼けせし父の担ぎて畑に行きし鍬も熊手も錆びて掛かれり
   政石 蒙さん 遺歌集(23)・・・青松園     「青松」669号所収
巾広の足を気にせし姪なりしハイヒール履きて面会に来つ
ことづけて姉のよこせる強飯の少し臭きをがまんして食ふ
慰めるつもりが慰められしよと舌を出したり帰るとき姪は
姪の乗る船遠ざかる春の海常にはあらぬ表情となる
あらたまり別れを言ひて嫁ぎゆく姪の未来にひそかに恃む


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