詩と詩集の紹介
第1詩集 「はだか木」
「はだか木」より
悪の不消化
小さな悪
太陽の下で
悪の意識をもたなかったとしても
やっぱり悪だろうか
小さな悪
さわやかな善意だけを意識していたとしても
やっぱり悪だろうか
小さな悪
それによって私が古い道徳の殻から脱皮したとしても
やっぱり悪だろうか
悪悪
小さな悪
私の心に飛躍と広がりを華やかに輝やかせてくれるとしても
やっぱり悪だろうか
善と悪には空間がない
あまりにもはっきりとした裏表になっている
だから善と悪は
もっと広く
もっと大きく
ゆるやかにへだたっていてもいいのではないか
サタンは
もっとユーモラスであってもいいのではないか
善と悪をあまりに明瞭に割り切るので
人間には逃げ場がないのだ
だから
善と悪の
微妙に鋭利な刃先で
傷つくのだ
後記より
私は少女の頃、詩という形式の文学にひとつの憧憬をもっていました。しかしそれは、まだあわあわとした未知への夢想であって、実際は少女期をうかうかと過ごしてしまいました。
私がはじめて文学を志したのは二十四歳のとき、しかしそれは詩ではなく、短歌という形式だったのです。歌人の友人と知り合ってから、私は、彼の執念のように厳しく徹底した、言葉の選択をもっとうとする手堅い定形短歌の手法から、今振り返って見て大いに学ぶところがあったように思います。
しかしその後、私は短歌という短詩形文学の制約の中で、いくたびか障壁に突き当たり、一時は文学を断念しようと考えたこともあったのですが、一度考える習慣をもってしまった私には、何も考えないでいることの方が一層虚しく苦しいことであるということを思い知らされただけでした。そして、三年程前から、烈しい内面的な表現意欲をおさえきれず、つぶやきのように書き記したものが、自由詩という形式だったのです。
しかし、私の詩情は未だ観念の中に包まれていてややかたい蕾の感があります。でも私は、私の詩情が私の中で豊かに花開くときを待ちたい。そして、閉ざされた私の世界の中で詩は常に止みがたい希求の叫びでもあるのです。
本書をお読みくださる方に感謝いたします。
この詩集について
全34篇で、1961年に出版された記念すべき第1詩集です。
電子書籍として「でじたる書房」より入手可能です。
ここでも随時ご紹介していきますので、お楽しみに。
当時、村野四郎先生が選者をしておられたNHKのラジオ番組「療養文芸」というコーナーで入選・佳作となった作品が集められています。
メモ
昭和36年11月3日、河本睦子発行。非売品。
編集・装幀・デジレ・デザイン・ルーム・桜井俊男
題字・西村四郎
平成19年3月28日、でじたる書房より電子書籍として発行。
装幀・板越智子・・・webデザイナー