旅
この世の光に迎えられて
長い旅は始まった
母のひざから二歩三歩
生きる旅に立ち会った私の足
子供の頃は隣の町へ
少し大きくなってからは
ハンセン病の診察のために
父に連れられ
福岡 東京 大阪と
各大学病院へ、それから
数知れぬ小さな病院へ転々と
受診の旅を重ね
つづまりは島の療養所におちついたが
そこは入ったら出られないところだった
思えばそこで五十年
黙々と日々を重ねて今日にいたった
そして
この度「らい予防法」という囲いの壁は
とりはらわれ
天下晴れて自由の身となったこの喜びをだいて
どこへ旅をしようか
ここだあそこだ他の果てだ
思いは湧くがついて行けない体になった
けれどもまだ
果たし得なかった楽しい旅の幻影を
実現したいと
こんなにも希っている
どんなつらい時も、向こうにかすかながらでも希望の火が見えていれば、人は堪えられるものだ。 今の私はうなぎであると詩いましたように、人の館にたてもこり自分のような身体不自由者でも、安心して外へ出られる世間になることを、希望として待ちたい。そして、大らかな幸福感のおとずれるのを待ちたい。
全42篇で、2002年に出版された第17詩集です。 でじたる書房より電子書籍にて入手可能です。ここでも随時紹介していきますので、お楽しみに。
2002年4月15日、編集工房ノア発行。絶版。装画・岡 芙三子・・・抽象画の画家 2008年7月3日、でじたる書房より電子書籍として発行。