詩と詩集の紹介
第1詩集 「はだか木」
「はだか木」より
墓
どんな所に置かれても光る言葉を
首にかけて置きたい
何時までたっても色あせない言葉を
目の底にやきつけて置きたい
長い長い時間の歴史の上で
美しい風化を遂げた言葉の清潔さを
耳に飾って置きたい
私は言葉の墓だ
私の血と肉をくぐって
言葉が甦えってゆくのを眺めながら
私の土壌は果しなく広がり
私の骨が言葉に喰入ってゆくのを見送ろう
そして
言葉と骨が熔解して
純粋な風化を遂げ
私の墓の上で貝殻のようにちらばり
粛然と雨にうたれている
墳墓でありたい
後記より
私は少女の頃、詩という形式の文学にひとつの憧憬をもっていました。しかしそれは、まだあわあわとした未知への夢想であって、実際は少女期をうかうかと過ごしてしまいました。
私がはじめて文学を志したのは二十四歳のとき、しかしそれは詩ではなく、短歌という形式だったのです。歌人の友人と知り合ってから、私は、彼の執念のように厳しく徹底した、言葉の選択をもっとうとする手堅い定形短歌の手法から、今振り返って見て大いに学ぶところがあったように思います。
しかしその後、私は短歌という短詩形文学の制約の中で、いくたびか障壁に突き当たり、一時は文学を断念しようと考えたこともあったのですが、一度考える習慣をもってしまった私には、何も考えないでいることの方が一層虚しく苦しいことであるということを思い知らされただけでした。そして、三年程前から、烈しい内面的な表現意欲をおさえきれず、つぶやきのように書き記したものが、自由詩という形式だったのです。
しかし、私の詩情は未だ観念の中に包まれていてややかたい蕾の感があります。でも私は、私の詩情が私の中で豊かに花開くときを待ちたい。そして、閉ざされた私の世界の中で詩は常に止みがたい希求の叫びでもあるのです。
本書をお読みくださる方に感謝いたします。
この詩集について
全34篇で、1961年に出版された記念すべき第1詩集です。
電子書籍として「でじたる書房」より入手可能です。
ここでも随時ご紹介していきますので、お楽しみに。
当時、村野四郎先生が選者をしておられたNHKのラジオ番組「療養文芸」というコーナーで入選・佳作となった作品が集められています。
メモ
昭和36年11月3日、河本睦子発行。非売品。
編集・装幀・デジレ・デザイン・ルーム・桜井俊男
題字・西村四郎
平成19年3月28日、でじたる書房より電子書籍として発行。
装幀・板越智子・・・webデザイナー