詩と詩集の紹介
第11詩集 「時間の外から」
「時間の外から」より
熱
なしとげ得るか
成し遂げられないか
やろうとすることに熟くなっているときには
体の中に
不思議な活力がみなぎり
尋常でない力におしまくられて
猛然と目的に向かって突っ込む
けれども
仕事も恋も
いつも未知数で
追いかけている間がいいだけだ
そのうち
熱が覚めると
勝利も敗北もなく
街は気の抜けたビールのように
みんな白けて
人々は
芝居のはねた後の
木偶人形のように立ち
私は消えそうに寒い体を
やっと支えている
後記より
私たち人間の大人は、働いて日々の生活の糧を得て暮らしているというのが、ごく普通のこと。いやあたりまえのことなのです。でも私のように長年療養生活をしているものは、国によって養われているので、働くこともなく、したがって生きるために味わう、危険や冒険に身をさらしてかちとる、熱い力のようなものを、いつのまにか失ってしまって「蝶」という詩の中にありますように、なにかちがった世界にいて、それでも幸か不幸か、普段はそんなことさえ忘れて、あたりまえの尋常な生活であるような錯覚の中でこころよくさえ暮らしているのです。
しかしこれは、考えてみればとても恐ろしいことで、自分の裁量で生きるすべを失ってしまっている私達療養者は、このままぽいっと、どこかの都会へでも投げ出されてしまえば、全く生きて行けないような事態になっているのです。
でも私は、そのことに気付いているということがとてもこわいので、気付かぬふりして生きるしかない自分に、まともなのだと言えないことを、さみしがりながらも、まとものように生きているのです。そういう状態の中でこの作品群は生まれました。
はたしてこの詩集の中で、そのことをどれほどうたい得たかはわかりませんが、この詩集をまとめるひとつの意味としてそれはあったのです。
この詩集について
全41篇で、1990年に出版された第11詩集です。
でじたる書房より入手可能です(電子書籍)
ここでも随時ご紹介していきますので、お楽しみに。
メモ
1990年9月20日、編集工房ノア発行。絶版。装幀・栗津謙太郎・・・画家・装丁家
2008年2月19日、でじたる書房より電子書籍として発行。