灯の下で
ペンも手も
灯の下に確かな影を置いて
私が手を動かすと影もついて動く
タバコもマッチ棒一本さえもそこに在るとき
その影を置くのだから
この私の体が
部厚い影にくまどられる
まぎれもない物体であることは
白波のかむ岩よりたしかだ
私がしゃべれば
その声は音として伝わる形のない露出
それなのに
私はただひとつ
どんなに残酷なことを思っていても
優しさに満ちていても
殺意のひらめくときさえも
また猫のようなずるさや潔癖さなど
見えないものを裡深くもっていて
外から見えないことに
ある意地悪いよろこびをもったり
楽しみを覚えたりする
あるとき
不思議なものを見つけたように
自分の中にそれを見つけ
露出したすべてのものの内側の
その秘密の場所に
そおっとさわって見るのです
生きているという、私の生身はいやおうなく満干を受け止めて在らされています。 そして私は、かわいたときの痛みや満たされているときの喜びの中で、さまざまなことを考えますが、自分自身がいつも自分に見つめられる対象でありながら、表皮をひっぱがし骨の髄まで目になってもまだ見つくせない何かがいつも私を貪欲にむさぼりつづけさせています。そして、私はその箸を置くことのない貪欲な鬼のために詩を書きつづけることでしょう。
全44篇で、1980年に出版された第6詩集です。 「でじたる書房」より電子書籍として入手可能です。 ここでも随時ご紹介していきますので、お楽しみに。第5詩集「聖なるものは木」以降のもので、詩誌「黄薔薇」(永瀬清子さん主催)、「樫」(三木昇さん発行)、「戯」(扶川 茂さん発行)、「木馬」(麻生知子さん発行)に発表したものに未発表作品が収められています。
1978年8月30日、花神社発行。絶版 2007年9月5日、でじたる書房より電子書籍として発行。