詩と詩集の紹介
第12詩集 「日常」
「日常」より
旅
方向おんちの私に
こういうときはこうするのだ
こんなときはこうしたらいい
財布は持ったのか
電話番号はもったのか
時計は狂っていないか
めしいのあなたに
こんなにも気をもませる私の旅
それでも
こんな私にしても居なかったら
困らないかなーと思って心配すると
「どうにかなるよ」という
着替えをして
たばこを吸わして上げながら
行ってくるわ大丈夫
ほんとに大丈夫と
何度もなんども言った
空はエメラルドグリーンの明るさに
すみずみまで澄み透って
五月の太陽にまぶしい道を
港へと
飛び上がりとび上がり
ハンドバックを振り回しながら
急いでいる私
後記より
私達、人間社会の中では、生存競争にしのぎをけずって傷つき疲れ、よるべないことどもの中に、夫婦という至ってノーマルな人間関係があり、そこで互いにいたわりながら、また意見をのべ合いながら、愛しあい高められてゆき、羽を休めるべき暖かい家庭の中で子孫が誕生しながら生きつがれて来たのです。またその関係があったればこそ、豊かな人間性がはぐぐまれてゆくものと思います。
ハンセン病療養所にある私達夫婦の日常は、「泡のように消えるものにかこまれながら/なにをたのしみにして在ったのか/あの確固たる思いは」と詩いましたように、泡沫のように消えてしまうものにかこまれていながら、いつも確かなものだと、何の不安も感じずに生きているのです。<br>
この度はそんな日常にくり広げられる、私達の日々の中で生まれ出た作品を一冊にして見ました。
この詩集について
全41篇で、1993年に出版された第12詩集です。
電子書籍としてでじたる書房より入手できます。
ここでも随時ご紹介していきますので、お楽しみに
メモ
1993年5月10日、日本基督教団出版局発行。絶版。
装幀・熊谷博人
2008年3月12日、でじたる書房より電子書籍として発行。