詩と詩集の紹介
第10詩集 「不明の花」
「不明の花」より
書 く
心の他の血で書く
皮膚と肉のすりむけたりこすれたりする
さらした部分に
受けたもので書く
それで足りないところは土性骨で書く
土性骨だけでは書けない
微妙な愛で書く
一枚ひっぱがした
ゆらぎで書く
恥ずかしさで書く
めぐらした視野の
その半円の広がりに浮き上がる
もので書く
白々と支えるもののない
むなしさで書く
つま先から脳天まで
私はすべてでとらえ
とらえてはペンにたくして
静かにそれを定着させる
誰も要求しないのに
この真夜中
刃物のように冴えきって
私は
不思議な作業をしている
再販後記より
私達は日常なにげなく話している会話の中でさえ、数知れぬ言葉をあやつって、自由自在に話をします。まして、喜び、驚き、怒り、恐怖、悲しみ、淋しいとき、楽しいとき、また美の極限、感動の極限に置かれたとき、私達はどれほど多くの言葉をもっていることか、自分自身でもおどろくことがあります。しかし、それはどの場合も、そのことにゆきあたらなければ出てこない不明の花達です。私たちひとりひとりが言葉の宝庫であります。この宝庫をどれだけ活用しているかということが、あるいはこの宝庫にどれほど感覚と知識をしまい込んでいるか、ということが私達の暮らしを貧しくするか、豊かにするかをきめてもくれるようです。
私は詩作生活四十七年になりますが、「不明の花」を書いた時期は、「食べ疲れたら しおりをはさんで また食べます」とありますように、最も読んだり書いたりという詩作生活に励んだ時期だったと思います。そして、本に親しみペンに親しんで多くの作品を生み出しました。
作品は私の命です。今読み返してみても作品への熱い思いが伝わってきます。
書くこと、それは自分を高めることであると同時に、自分を暴くことでもありますが、飽きることなくそのことを繰り返してまいりました。高めることは尊いことであり、暴くことは厳しいことです。しかしながら、暴かなければ本質を書くことはできず、高めなければ進歩することもありません。私は一筋にペンのおもむくところを書き記しました。
読者の皆さん、私の命を覗いて見てください。きっとあなたに呼びかけるでしょう。その時振り向いてください。送信した私の電波を受信して、素晴らしい出会いが生まれるでしょう、それから作者と読者が一体であることを知るでしょう。
この詩集について
全42篇で、1989年に出版された第10詩集です。
絶版になっていたのですが、改訂版が再販されました。
また、でじたる書房より電子書籍にても入手可能です。
ここでも随時ご紹介していきますので、お楽しみに。
メモ
初版・1989年6月18日。
改訂版・2006年9月18日、海風社発行。装幀・高橋啓二・・・主に京阪神で活躍をされている装丁家。
2007年11月21日、でじたる書房より電子書籍として発行。