人は多くの記憶をもっていて、それは思い出として浮かび上がったり、忘却の中へ沈んでいったり致しますが、忘却の中へ沈んでゆくことさえ、それが在ったということを消しようのない、証となるのです。
この詩群は、そんな多くの記憶をふまえて書きましたもので、日々の現実とかさなり、どれもみな日常のなりわいのなかに見られるものですが、そうは言ってもこの中の作品はみな、私だけの思いであり、私だけの記憶ですので、誰も代わって書くことのできないものです。そういう意味ではやはり書きとめておくべきことであると思うのです。
この詩集は私の15冊目の詩集で、私としては、ここまで書きつづけてこられたことを喜ぶべきことと、なにものかに感謝しております。